ストローベイル建築とは? 

環境に配慮した自然素材を使ったエコロジカル建築の普及が急速に求められている。藁の塊・ブロックを壁材として使用するストローベイル建築は、断熱効果や仕上がりの美しさ、素人も楽しく施工に参加できる等の利点があり、世界的に大きな関心を集めている。

穀物栽培の副産物である藁を圧縮し、ブロック状にした物をストローベイルという(図1)。ストローベイル建築は、この藁のブロックを積んで耐力壁あるいは非耐力壁を作り、その上に、土や漆喰を塗って防火性能、断熱性能、耐久性能を高めて仕上げる。世界的には、ストローベイル自体を構造壁として建設する構法(ロードベーリング)もあるが、日本ではストローベイル建物のほとんどが非耐力壁構法(ノンロードベーリング)を用い、ベイル壁は木造枠組断熱材として使用される(図2、図3)。ストローベイルの固定方法は様々である。日本での普及には壁の耐久性が重要となり、さらにベイル壁内の湿気を抑えることが課題として挙げられる。
図1: ストローベイル

図2: 耐力壁(木造無し)

図3: 非耐力壁(木造の外側か内側にベイルを積む)

ストローベイル建築の歴史

米国の大草原地帯は元々木が少なく、木材が手に入りにくいため、そこに定住した欧州移民は芝生の土をブロックの形に切り、煉瓦のように積み、壁を作った(Welsch, 1973b)。しかし、ネブラスカ州中部の土は砂が多く、この芝生のブロックは崩れやすかった(図4)。さらに、芝生さえ使えないネブラスカ州中部では、草原地の草のベイルを建材として使った(Welsch, 1973a)。ベイルはベイラーという干し草や藁を圧縮してブロックの形にする農業機械によって作られる。当初のベイラーは馬や蒸気で動かしていたが、現在では、トラクターにつなげて動かす。
図4: 米国ネブラスカ州

記録によると、最初のベイル建物は1896年、ネブラスカ州に建てられ、現存している一番古いストローベイル住宅は、1903年に同じくネブラスカ州に建てられた(Myrhman et al, 1993)。ストローベイル建築の絶頂期はおおよそ1900年から1935年である(図5)。建材が手に入るようになると、ストローベイル建築の需要は低迷した。
 
図5: 「Martin Monhart House」1925年竣工(上)と「Pilgrim Holiness Church」1928年竣工(下)

その後、ポストモダンの流れの中で、1973年に『シェルター』という自然建築を紹介する本が米国で出版され、ロガー・ウェルシュというネブラスカ州の歴史学者が書いた記事が2つ掲載された。一つはネブラスカ州特有のストローベイル建築に関し、ストローベイル建築の復活の契機ともなった。

環境建築、DIYでの自力建築等、エコロジーと建築の融合がテーマとなってきた近年、ストローベイル建築は世界中に広がっている。国際ストローベイル建築登録データベースによると、2011年10月現在で6大陸にわたり45各国に1541件のストローベイル建物がある。

環境問題に対してストローベイル建築の特徴

世界各地にストローベイル建築が広がっている理由としては、ストローベイル建築が環境負荷の少ない建築であるという点がある。他の材料に比べ、藁(麦藁、稲藁等で、日本では稲藁が主)の確保は省エネで環境への影響が少ない。また、他の建材に比べ、ベイラーによるベイルの生産は省エネでもある。ニュージーランド、ウェリングトンにあるビクトリア大学の調査によると、調査対象121種の建材の中で、ベイル1立方メートル当たりのエネルギー消費量は30.5MJ/m3と、最も低いものとして報告されている(図6)(Centre for Building Performance Research, 2010)。
図6: 建築材料の生産使用エネルギー

また、日本では全国で稲作が行われており、藁は地元で入手可能な資材である為、ベイラーがあれば、どこでもストローベイルを生産できる。そのため、ストローベイルを使用すれば、在来建築材の生産や運搬により発生するエネルギーや二酸化炭素排出量を削減できる。

そして、藁は約36%が炭素からなる有機物で、ベイラーによる生産C02排出量が低いため、ストローベイル壁自体が炭素貯蔵の役割を果たすとも言える(図7)(Wihan, 2007)。
図7: 建築材料のCO2排出貯蔵比率

さらに、ストローベイル壁は断熱効果(熱伝導率は約0.038W/mK)に優れており、冷暖房によるエネルギー消費や二酸化炭素排出量の削減にも効果がある(図8)(Bigland-Pritchard, 2005; Young, 1992)。
図8: 建築材料の熱伝導率

最後に、藁は有機物で、安全に土に返るため、解体する際ゴミにならず、運搬や廃棄によるエネルギーや二酸化炭素排出量を削減できる。

日本におけるストローベイル建築の歴史と現況

日本でストローベイル建築の普及促進を行う日本ストローベイルハウス協会によると、日本での最初の実用的ストローベイル住宅は、2001年に栃木県で建てられたが、現在、著者は沖縄から北海道にかけて、50件以上のストローベイル建物を確認している(Japan Straw Bale House Association, 2009; Holzhueter, 2010)。住宅、カフェ、レストラン、ミルク工房、事務所等、多様な建物がある。

日本ではDIYによる個人で施工を行う施主さんもいるが、ストローベイル建築を促進している団体が5つある。①糸長浩司によるNPOエコロジー・アーキスケープ②大岩剛一によるストローデザイン研究会、③吉本宏明によるNPO富山ストローベイルハウス協会、④大島秀斗によるストローベイルプロジェクト、⑤馬上精彦によるNPO日本ストローベイルハウス協会、⑥日本大学糸長教授の研究室である。

壁内湿気の施工的な対策

日本でのストローベイル建築の最も大きな課題は湿気とカビによる腐敗である。日本でのストローベイル建築の普及には、この課題の解決が必要不可欠である。この問題を解決するため、著者が、気候の異なる日本各地でのストローベイル建築の施工に携われ、建設した9建物への温湿度センサーを設置し、収集したデータの分析により、壁内の防湿対策及び施工的対応策を検討し提案する。

温湿度測定センサーはストローベイル建物の壁内、室内、外部に設置し、データロッガーで1時間ごとにデータを記録した(図10)。
図10: 壁内温湿度測定センターの典型的な設置箇所

現場観察と収集したデータの分析により、温湿度環境の動態が解明され、各建物の湿気要因が指摘できた。各建物の壁内湿度は様々だが、傾向が明らかになった(図11)。夏に壁内最大相対湿度が観測された場所は、主にベイル壁の低い内側の位置であった。冬にこの傾向が逆転し、壁内最大相対湿度が観測された場所は、主にベイル壁の高い外側の位置であった。
図11: 壁内高湿度傾向

研究成果をもとに壁内湿気を抑えるストローベイル建築の施工方法を提案する。重要な点は①庇を十分に取り、雨からベイル壁を守る。②降水量が多い地域では外壁通気構法を利用する。③十分な雨水処理機能を持つ屋根を確保する。④基礎や土台の高さを十分にとり、地面から飛び跳ねる雨水からベイル壁を守る。⑤窓の水切をベイル壁から十分に出し、雨水が窓下の壁を浸食しないようにする。⑥ベイル壁内の通気を防ぐ。⑦防水層と水切りにより、地面の湿気がベイル壁内に入らないようにする。⑧建物の周辺には、雨水処理のために地面の水勾配をとり、配水管を設置する。

日本におけるストローベイル建築の普及可能性を探るため、日本各地でストローベイル建築の温湿度環境を観測し、温湿度環境の動態が解明され、壁内湿気を抑制するストローベイル建築施工方法を提案できた。この施工方法により、日本の風土と建築文化と融合したストローベイル建築の普及が期待できる。

コンサルティング

ストローベイル建築に関するコンサルティングをいたします。
湿気対策と耐久性、施工方法、熱環境と断熱などの基本設計に関するご相談を承ります。
携帯電話番号: 080-3477-9841
メールアドレス: nihondaigaku.kairu*gmail.com (*の代わりに@を入れてください)

参考文献

Bigland-Pritchard, M. (2005) An assessment of the viability of strawbale wall construction in buildings in maritime temperate climates. PhD Thesis, University of Sheffield.

Centre for Building Performance Research, Victoria University of Wellington (2010) Table of embodied energy coefficients. Available Online: http://www.victoria.ac.nz/cbpr/documents/pdfs/ee-coefficients.pdf

Holzhueter, K. (2010) The Hygrothermal Environment of Straw Bale Walls in Japan and Building Practices to Control Interstitial Moisture. PhD Thesis, Nihon University.

Japan Straw Bale House Association (2009) First straw bale house in Japan. Available Online: http://www.japanstraw.com/index/main/03hatuno/03hatuno.html

Myhrman, M., Knox, J. (1993) A brief history of hay and straw as building materials. The Last Straw, 3, 2-4.

Welsch, R. L. (1973a) Baled hay. In: Kahn, L. ed., Shelter. Bolinas, CA: Shelter Publications.

Welsch, R. L. (1973b) Sod. In: Kahn, L. ed., Shelter. Bolinas, CA: Shelter Publications.

Wihan, J. (2007) Humidity in straw bale walls and its effect on the decomposition of straw. Master’s Thesis. University of East London School of Computing and Technology.

Young, H. D. (1992) University Physics, 7th Ed. Addison Wesley.

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